教員リレーコラム

常識やぶりか?発想の転換か?

石黒 茂[作業療法学専攻]

記憶は曖昧であるが、インターネットか新聞で、カップラーメンを食べるのにキッチンタイマーで正確に時間を計っていた夫が妻に馬鹿にされ、そのことを友人に話したら、「キッチンタイマーで時間を計る人なんて珍しいでしょう」と言われたという話を読んだことがある。私も適当にしか時間を計ったことがない。実際はどうだろうか。気になると言えば気になる。 カップラーメンやレトルトカレーなどのインスタント食品と言えば、3分間待って食べるというイメージが強い。かつて時代劇『子連れ狼』のパロディで大ヒットしたカレーのCMも「大五郎3分間待つのだぞ」であった。実際、インスタント麺を空腹時に手っ取り早く食べる時、この3分間は待つのにちょうどよい時間である。 一方、カップ容器入りインスタントうどん、いわゆる「カップうどん」は、熱湯をかけて5分間待って食べるのが普通である。私にとっては、この5分間が時には長い。つい待ちきれず、固めの麺を食べてしまうこともある。 今、この「カップうどん」が巷で話題となっている。N社の「カップうどんD」の食べ方についてである。発売以来40年続く熱湯をかけて5分間待つ食べ方より、「常識破りの『10分待ち』で食べる方がうまい」とSNSで評判になっている。麺が柔らくなめらかとなり、汁が十分にしみ込んだ油揚げとの組合せは絶妙で、画期的な発見であるそうだ。単に「のびたうどん」ではないのかと疑問をもたない訳でもないが、「20分待ち」「30分待ち」の食べ方や他の製品で食べることも試され、食べ方に広がりを見せている。つい気になって、インターネットで調べてみると他の食品でも、独特な食べ方、意外な食べ方がたくさん紹介されている。SNSが普及し、こういったことをみんなで話題にし、盛り上がりやすくなっているのだそうだ。 しかし、律儀な日本人といえども、誰も40年の間「5分待ち」でしかカップうどんを食べたことがなかった訳ではないだろう。食べるタイミングを失い、しかたなくのびたうどんを食べた覚えは私にもある。多分そういった時は、しまったと悔やみながら、特別にうまいとは思わず食べた気がする。多くの人も『10分待ち』のDがうまいと評判になってはじめて、そう言われてみればそうだと思ったか、興味本位で食べてみて、そう思うようになったかのどちらかで、『10分待ち』の食べ方は、常識破りと言うよりもコロンブスの卵的発想の転換のような気がする。 いっその事、カップうどんの待ち時間を10分に変え、ふわふわ卵でも付けて「10分待ちコロンブスの卵入りうどん」として売り出したらと思うが、空腹時には、お湯を入れて10分間待たされるのも、つらいと言えばつらい。
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